⑩ ハイパーインフレや国債の暴落(金利の暴騰)はおこらないのか?

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まず、ハイパーインフレは主に生産能力のない国で国債を濫発や、大量の紙幣の発行をを行う場合に起こるものです。戦後の日本は敗戦により国中が焼け野原になり、物が不足しました。この状態で国債を発行し、日銀は紙幣を大量に市中に発行すれば物価は急上昇します。戦後のドイツやジンバブエなどハイパーインフレが起こった国は物不足があるうえに、政府が紙幣を大量発行することにより物価の急上昇を招くものです。
日本のように物が余っており、むしろなかなか売れずにデフレ傾向にある状況で、日銀が紙幣を供給しても、借入をする人が増えるわけでもなく、ハイパーインフレは起こりません。物価は需要と供給によって変動するためです。
また、こうした国などはドル建ての国債を発行しており、自国がハイパーインフレになると、通貨の価値が下がるということになり、自国通貨が半分の価値に下がると、ドル建ての国債は倍の価値に跳ね上がってしまい、借金の返済が不可能になる、いわゆる債務不履行(デフォルト)の状況に陥ってしまいます。しかし、日本の場合には円建ての国債を発行しているので円安により国債の価値が跳ね上がることはないため、円安によるデフォルトも考えられません。
しかし、それでも国債の増発をすれば、いずれ買い手がいなくなり、需要と供給の関係から、国債が暴落=金利が急騰することになるのではないか、という懸念があります。しかし、国債の買い手というのは、主に銀行や保険会社などですが、こうした会社は人々からお金を預かって、そのお金を国債で運用しています。日本は経常黒字国で外国との取引で黒字の状態が続いています。貿易収支は赤字に転落したこともありましたが、原油安でまた貿易黒字に戻っていますし、経常収支では黒字です。これは、外国とのやり取りでモノやサービスを売って日本国内にお金が入ってくることを意味します。日本に入ってきたお金は銀行などに預けられるので、銀行はその預かったお金で国債を変える額が毎年増えて行くので、経常黒字の国では国債の暴落が起こりにくいと言えます。
それでも、国債の発行額が増えれば、利払い費は増えて行くことになり、いくら低金利とはいえ、利払い費の増加により、財政はますます苦しくなるし、何らかの要因で金利が少しでも上昇すれば、利払い費もそれに比例して上昇するので、利払い費の負担増で財政が毀損するのではないかという恐れもあります。
しかし、それも今のところすぐには考えられません。まず、金利が上昇したとしても過去の国債の利率はあくまでも固定されているので新規に発行する分の国債に対する利息が上がるという影響にとどまります。
そのうえ、現状では日銀が国債の購入をしているので、国債価額の暴落は起こりようもなく、金利の急騰も考えずらい状況です。
しかし、この場合は政府の財政を日銀が引き受けている財政ファイナンスではないか、という批判もあります。日銀が財政ファイナンスを行っていると見られ、日銀に対する信用が失われれば、当然国債の価格は暴落し、金利は急騰することになります。
ここで大事なのが、財政ファイナンスに該当するかどうか、ということです。その判断の基準となるのが、「インフレ率2%目標」となります。日本がインフレ率2%に達しない限り、日銀の異次元金融緩和はその目的のための手段であると言えますので、政府の財政を日銀で引き受けるために購入するような財政ファイナンスではないということができます。逆にインフレ率が2%を超えて高騰をしてくれば、日銀は金融を引き締める必要があり、国債の購入額を減らす必要が出てきて、国債の暴落=金利の高騰の可能性はありますが、現状、インフレ率2%達成までは相当な時間がかかりそうですし、達成できていないのが現状なわけです。
さらに、2016年3月時点での国債発行額910兆円のうち日銀が保有する350兆円については、国として実質的には金利がかかっていないというのをご存じだろうか。日銀は国の100%子会社であるので、日銀が保有している国債に対する利息の収入は、日銀の収益となり、そのまま、国庫に返納されています。
つまり、2016年時点の国の国債910兆円のうち、350兆円、実に38%については利息を払っていないのと同じなのである。日銀保有の国債が増えれば増えるほど、利払い費は減少していくということになるのである。
しかし、こんなにうまい話があるのだろうかと、疑問に思うかもしれませんが、日銀には通貨発行権があり、これにより通貨を発行して、国債を購入することができる。これを続ければ、通常インフレが起こるはず(デフレマインドの強い日本ではなかなかうまくいっていないが)なので、日銀が通貨発行権を使って政府の国債を購入することにより、国債による利払い費を抑制した分は一体だれが代償を払うのか。それは、日銀の購入により金利が安く抑えられた状況となり、国債を保有する投資家たちであり、さらには、日銀による国債の購入によりもたらされるインフレによって、市場での名目金利が上昇し債権価額が下落することにより国債を保有する投資家が損失を被り、また、二次的にはインフレにより所得が増えた納税者たちが超過累進課税により負担が増える納税者になると言えます。
それでも、消費増税を断行することにより無理にプライマリーバランスの黒字化を図ろうとすると、景気の悪化を招き再びデフレスパイラルに陥り、財政はますます悪化するという可能性があり、その危険性を考えると、日銀の異次元金融緩和により国債の購入ができる現在、インフレ率2%という目標に合わせた政策として行う以上は、財政ファイナンスや国債のマネタイゼーションとみられて日銀の信用が毀損することもなく、金利も低位に抑えられた状況は続き、また、日銀の国債保有による実質利払い費も抑えられ、さらに経常黒字国という国債の購入資金が毎年増えるという恵まれた状況がある中では、シムズ理論による財政支出の拡大により一時的な国債の増加を許してでも、確実にインフレ率2%の達成と景気の力強い回復へ向けて舵を切ることが大事ではないかと思います。

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